Team TAKKY
TRAVEL
アブナイ女子旅
かなこは立ち上がった。
「どうしたの?」
さやかが聞く。
「そうだ、女子旅しよう」
かなこが言った。時計は二〇時を指している。
かなこに連れられて向かった先は大学からほど近い電話ボックス。
「じゃじゃーん」
「え…ただの電話ボックスじゃん」
なつのがあきれたように言った。
「いいから、いいから。はい、みんな電話ボックスに入って、入って」
全員が中に入ったのを確認したかなこは受話器を外した。すると公衆電話がスマホの画面のように変形した。
「ここに時代と行きたい場所を打ち込んで決定ボタンを押すと…」
五人の周りに竜巻のような風が起こった。すると次の瞬間、よく知る御茶ノ水の景色はなく、その代わりに古くさい建物が並んでいた。
「え?なにこれ?どういうこと?」
慌てふためいた様子でももこが言う。
「実はね、あの電話ボックス、タイムスリップができるの!」
かなこが目を輝かせて言った。
「そんな…まさか…ねえ…」
まだ状況が読み込めていない四人の前を着物を着て刀をさした女性が通った。
「うっわ。今の人見た?銃刀法違反じゃない?」
さやかが真面目な顔して言った。
「違反じゃないよ。だって今いるのは一七一七年の東京、というより江戸だね。当時は武士がいたって習ったでしょ?」
「なんでその時代をチョイスしたのかよくわかんないけど…それにしてもおかしくない?だって武士は男性でしょ?さっき通った人は明らかに女性だったよ?」
ももこの頭には明らかに?マークが浮かんでいる。というより全員の頭に?マークがついている。
「うーん……あれじゃない?歴史的文書と実際は違いましたーっていう感じ?ほら、土佐日記も紀貫之が女性に成りすまして書いたって言われてるじゃん!」
「なるほど、さすが、みずき」
「さやか、そんなにすぐ納得できるもん?」
なつのがつっこんだ。
「でもちょっと面白くない?自分たちが習ってきた歴史と現実が違うって。ちょっと散策しよう」
ももこの言葉で五人は歩き出した。街並みは教科書で見たのと同じだが、やっぱり人物たちだけ様子が違う。刀を差してるのは女性だが団子屋で団子を売っているのは男性だ。家を作っている大工をよく見ると女性だが、庭先で裁縫をしているのは男性。
なつのは感心しながら口を開いた。
「なんか最初は違和感しかなかったけど、見慣れてくるとなんてことないね。しかも女性が活躍してる社会って素敵」
「そうだよね。現代でも女性の社会進出が進んできたけど江戸時代から考えると全然まだまだなんだね。でもさ、逆にどうやってここから男性優位的な社会になっていったんだろう?」
「ももこ、それはたぶん触れちゃいけないところだと思うよ。さて、元の場所に戻ってきたよ。次、行きたいところがある人?」
かなこが受話器を外しながら聞いた。
「はい、はーい。中世ヨーロッパ!きらびやかな世界が実際どうだったのか見てみたい」
「OK。」
さやかの注文を受けてかなこが画面に入力する。
「じゃあ、一三一七年のロンドンっと。決定」
前回と同様に周りに竜巻が起こった。
すると五人の目の前にはレンガ造りの建物が並んでいた。
「ワアオ!アンビリーバボー!」
「まるで映画の中にいるみたい!」
「イケメンがたくさんいる~」
「美女もたくさ~ん」
テンションが上がりまくりだ。
「また散策しようよ」とももこが言った。
「資料集で見るのとはやっぱり違うね。豪華さが違う!」となつの。
「この時代のイギリスって別に男女が逆転してないんだね」
「あれは昔の日本人がノリで変えちゃったんだよ、きっと」
ももことさやかがそんな会話をしていると遠くのほうから怒鳴るような大声が聞こえた。
「え?何、今の叫び声…」ももこが不安そうな顔をしている。
「やばい、みんな電話ボックスまで走って!」
かなこがみんなをせかした。
「え?何?さっきの叫び声、なんて言ってたの?英語だったから全然理解できなかったんだけど。」
「あのね、『あそこに魔女たちがいる』って…」
さやかの問いかけにみずきが答えた。
「あ、そういえば、一四世紀は魔女狩りが盛んだったって某魔法使いの本に書かれてた…ん?ってことは、私たち、魔女に間違われてる?」
「気が付かなかった?私たちが歩いてた時に周りの人に避けられてたの。見た目も話し言葉も違って、しかもテンションMAXな人たちがいたらそりゃ変人扱いされるでしょ。」
今度はかなこが答えた。
「あれ?道間違えた?来た道戻ってたはずなんだけど」
先頭を走っていたももこが泣きそうな声だ。目の前は行き止まり。振り返ると追手がすぐそばまで迫っている。しかもその姿は人間ではないようだ。耳はとがり、牙が生え、マントを羽織っている。
「かなこ、なんとかならないの?このままだと全員捕まっちゃう!」
なつのに言われてかなこは決心した。
「最終手段使うしかないか。『チャラララッチャラーン、スマートフォン!』(ネコ型ロボット風)」
「ふざけてないで急いで!」いつも冷静ななつのがかなり取り乱している。
「ごめんごめん、これでもとに戻れるよ。」
かなこが決定ボタンを押すと、また五人の周りに風が起きた。
「ふう、なんとか、ぎりぎり、助かった、ね」とももこが息を切らしながら言った。
「それにしても、かなこ、スマホで、もとに、戻れるなら、なんで、もっと、早くに、出して、くれなかったの?」となつのも息を切らしながらかなこに聞いた。
「いやあ、あの電話ボックスと連動させてたことをすっかり忘れてて…みんな走らせっちゃってごめんね」
「ねえ、ねえ」みずきがかなこの肩をたたく。
「ここほんとに二〇一七年?なんか様子が違うんだけど…」
「んー…ん?あ…やってしまった…二〇一七って押したつもりが慌ててたから二〇四七って押しちゃったかも…」
「えーーーー!」四人とも驚きすぎてひっくり返りそうな勢いだ。
「大丈夫、大丈夫。もう一回ちゃんと打ち込めば…ってあれ?動かない!スマホが動かない!」
「え?うそでしょ?そんなマンガみたいなことってある?」
かなこからスマホを取ったなつのが操作してみたがやっぱり動かない。
「ねえ、これってもといた時代に戻れないってこと?」ももこが心配そうな顔で聞く。
「そういうことかも」
かなこの返答に四人の顔が真っ青になった。しかし、みずきだけは冷静だ。
「二〇四七年ってことは、ロボットとかAIとかかなり発達してるはずだよね?ってことはどこかのケータイショップか電気屋さんに行けば…」
ちょうどその時、オレンジ色のサッカーボールのような、まるで星で戦う映画に出てきたようなロボットが近づいてきた。
「ナニカオコマリデスカ?ゴヨウケンヲオツタエクダサイ」
「お困りですっ!スマホを修理できそうなお店に案内してください!」
みずきが用件を伝えると
「カシコマリマシタ。トホゴフンデツキマスノデ、ツイテキテクダサイ」
とロボットが答えた。五人は藁にも縋る思い出ついていった。すると本当に五分でAとUの文字が看板に書かれたお店に着いた。
「モクテキチニトウチャクイタシマシタ。ゴリヨウリョウキンハゴヒャクエンデゴザイマス」
「え?案内料とるの?そういうのは先に言ってくれないと!」
さやかが悪態をついたものの一人百円ずつ出した。お腹の黒丸のところにお金を入れるとロボットは去って行った。
「いらっしゃいませ」
かわいらしい店員だ。一見すると店内も普通だが、店員が座っている机にはパソコンもタブレット端末も、スマホを修理できそうな機械など何一つない。
「あのースマホの修理をお願いしたいんですけれども…」
五人が椅子に座ると机の中央から文庫本サイズの箱が出てきた。
「修理ですね。かしこまりました。ではこちらにお乗せください。」
かなこが箱に乗せるといきなり青いライトが発せられた。
「これ、大丈夫なんですか?」ももこが心配そうにたずねた。
「大丈夫ですよ。ただちょっと型が古すぎるようですね…修理と同時に最新版にグレードアップさせておきますね」
と店員が言うや否や、今度は箱から緑色のライトが発せられ、その後赤いライトが灯いた。
どうも店員の言葉に反応しているらしい。
「はい、以上で終了となります。修理費のほうはこちらのスマホからひかせていただきましたのでお帰りいただきまして大丈夫です。ご利用ありがとうございました。」
店内に入ってから5分。早すぎる。五人は唖然としていた。
「お客様…?」
「…あっ、ありがとうございました」
かなこがお礼を言って立ち上がり店を出た。四人もそれに続いた。
「二〇四七年、さすがだ…」
最初に口を開いたのはさやかだった。あまりの早業に驚きすぎて五人ともしゃべれなかったのだ。
「と、とりあえず、スマホが使えるかどうか確認しよう…」
なつのに言われてかなこが電源ボタンを押した。
「つ、ついた!電話ボックスとも…連携されてるみたい!これで二〇一七年に戻れるよ!」
「やったーーーー!」
五人とも二〇四七年に吹き飛ばされた時とは違って顔は晴れやかだ。
「今度こそ間違えないでよね」
みずきにくぎをさされてかなこが慎重に打ち込む。
「二〇一七年、御茶ノ水、決定っと」
もうお分かりだと思うが風が起きて…
「あのー、起きてください。もう出てってもらってもいいですか?十時になるんですけど。学校閉まりますよ。まったく…」
男性に起こされてかなこは目が覚めた。
「あれ?なんでこんなところにいるんだ?」
場所は大学の十一階、休憩スペースだ。周りをみるとみずき、なつの、ももこ、さやかも横になっている。
「みんなちょっと起きて!学校が閉まるって!」
かなこに起こされた四人は慌てて荷物を持った。一階まで降りるエレベーターの中は沈黙。夢を見ていたような気もしたが、それが何だったかそれぞれ思い出すのに必死になっていた。
「そ、それじゃあ、また」
かなこがなんだか気まずそうに言うと、それぞれ帰路についた。
かなこは一人になってからスマホを取り出し、電源をいれた。
画面には数字が…
『1717/1317/2047/2017』
(end.)