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10/4 「科学とSF的想像力」 川端裕人先生

ナショナルジオグラフィックに基づくSF的ストーリーと非SF的ストーリー              

 

<SF的ストーリー>

 僕の世界は4色で構成される。通常、人間は3色を識別する能力しか存在しない。

 

「ねえねえ、種崎君は何を見てるの?」

 

 何を…見てるか?

 

「種崎君っていつもぼーっとしてるようで、でも何かを真剣に見ているような気がしてさ」

 

 真剣に…?

 

「ねえってばー、何見てたの?もしかして…私?」

 

 ああ、確かにお前のこと見てたかも。

 

「ほんとに?ほんとに私のこと見てたの?ね、私、種崎君のこと…」

 

 見てたよ。

 

「お前の、その紫外線大量に受けたきったねえ肌を」

 

僕の世界は4色で構成される。赤、緑、青、紫外線である。まだ乳児であった僕は鳥類の桿体細胞を移植され、4色を識別する脳になった。鳥は餌を探すためにこの4つ目の色覚が必要だそうだ。しかし僕には不必要なものであり、邪魔でしかない。世界が汚く見える。

 

見たくないのに、見たくないものまで見えてしまう。

 

「今日も世界は汚い」

 

 

 

 

<非SF的ストーリー>

 人間は愚かだ。

 他の動物より少し考える脳が発達しているだけで、地球上で何よりも高貴な存在であると勘違いしている。

 

 僕はそんなヘマはしない。人間の得手不得手、他の生物の得手不得手、それらを理解しているつもりだ。

 

僕は目が良い。だけどそれは人間レベルでの話。目が良い動物は腐るほどいる。その中でも僕が注目したのは魚だ。こいつらは人間よりはるかに色を識別している。人間は3色のオプシンしか持ち合わせていないが、魚は4,5色は当たり前の世界だ。

 

その景色が見たい。その一心で僕は研究に打ち込んだ。人間にはない世界を僕は見たい。

 

見たい。見たい。見たい。

 

大学の4年間という時間ををその研究に注ぎ、大学院まで行って、僕は完成させた。魚と同じ眼のメカニズムを搭載したVRだ。

 

「やっと…僕は愚かな人間を超える第一歩を…」

 

コトッ

 

この5年間の集大成を今―――――

 

「うわあああああああああああ」

 

 僕は愚かな人間だ。人間と他の動物を分け、融合しようなんてムシのいい話だった。

 

人間は人間でしかない。

 

世界は

 

だから成り立っている。

 

 

参考文献

・「研究室に行ってみた」河村正二、東京大学大学院新領域創成科学研究科(2016)

http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/web/16/012700001/012700001/

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