Team TAKKY
10/25 「翻訳としての異文化交流」 小谷先生
チャイナ・ミエヴェル著『ノスリの卵』冒頭部分和訳
良い朝ですね。
え?そんなことないって?もう、まだ拗ねているんですか?
まあ黙っていればいいですよ。私には関係ありませんからね。とにかく、自分の食事はとらせてもらいますよ。
そうそう、その食事のことだけど、私の火のつけっぷりはどうです?載せる薪は?美味しい煙だと思いませんか?私は後ろを向いて肩越しにあなたに燃えさしを放ることだってできるし、それを自業自得だと言う人もいるでしょう。でも私はやりません。そうでしょう?
あなた見えているんでしょう?私にはあなたの黄金の視線が感じられますもの。
そんな風に私を見て、怖がらせようとしても無駄ですよ。それより私の後ろの窓でも見ていてはどうです?私たちの丘は美しいと思いませんか?
まぁあれはあなたたちの丘ではありませんけれど。でも、陽の光に照らされた果樹園を見てくださいな。サイラスが歩いている小道がみえるでしょう。たぶん彼はそんな名前だったと思います。確かではないけれど。私と同じくらいの歳で、私の目と同じような灰色の髪の。この辺りにはあまり人がいませんから。でもときどき大声が聞こえて彼が顔を上げることがあります。私は、みんなが「サイラス」って呼んでいるんだと思います。
さぁどうぞ食べてください。私は見ないようにしますから。でもあの岩が見えますか?その辺りにある穴は?
男性の司祭と女性の司祭、それに兵士や奴隷たちが町から来たでしょう?話したことがあったと思いますが、この塔から所にある町ですよ。数ヶ月前のことです。彼らはつるはしを持ってきて、あの丘をごっそり取っていきました。隊長の話では、山から取れたもので何か新しい力が町で生まれるんだそうです。
名前は覚えていません。その隊長の名前も神の名前も、神が彼だったのかさえも。
あそこにいるのは鷲ですね。それにほら、ノスリも。
1羽の鷲と1羽のノスリが恋に落ちたことがあります。彼らはお互いに憎みあってもいましたが、同時に、愛し合ってもいました。鷲がノスリに乗っかり、ノスリは卵を1つ産みました。でもノスリはプライドが高いので、卵を抱くことはありませんでした。するとそこへ鳩が1羽やってきて、こう言ったのです。「私ってなんてバカなのかしら、こんな所に子供を置いてくるなんて。」そして卵を抱き、こう言いました。「私が覚えているどの子供より大きいわね!ここからなら海が見えるわ!」
食べましたか?あなた食事はするんですよね?
お願いしますよ。煙が美味しくないですか?気分が悪くなるはずありませんし。
海はここから40マイル先にあります。私は見たことはありませんが。一度、商人が一人この塔へやってきたでしょう?なぜ兵が彼を通したのかはわかりませんが。彼は海について私に教えてくれました。彼の娘は彼の背中におぶさっていて。彼女はとても小さくて、私があんまり見るものだから泣いてしまいました。彼は体を揺らして、お船だぞぅ、とあやしていました。
そうそう、さっきの卵は鳩の下で孵りました。中にいたのは鉄ように硬い羽毛がびっしりと生えた鳥でした。それが羽ばたくと雪が降り出し、それが鳴くと口から虹が出てきました。
あなたはそこにいたのかもしれませんね。なぜ何も話さないんです?私、何か失礼なことを言ったでしょうか?
何かしようとは思わないんですか?外では何も起きていない。あるとしても木々の間を通り抜ける風だけ。出たり入ったり、上がったり下がったり、それだけ。サイラスは今日も果物を収穫しようとしない。
中庭までは結構な距離がありますが、あそこの井戸を見たことはありますか?以前は泉が湧いていました。動物の像の口から水が出ていました。その音は私まで聞こえていましたが、良い音でした。しかし一人の兵士が酔っていたのか-何年か前のことです-それにぶつかり、一見何もないように見えたのですが像の中の何かが壊れたらしく、二度と水が出なくなってしまったのです。
彼が罰せられることはありませんでした。鞭打ちになることも。おそらく仲間の兵士たちがかばったのでしょう。それからしばらく、数匹の蚊が最後の水を飲んでいました。今はただの石の置物です。
石がつまらないものだと言っているわけではないんです。すみません。たしかあなたの国では石はあなたのものでしたね。
何も言うことはないのですか?私は雲の後ろには陽の光もあると思うのですが。
あなたはまるで子供のようですね。あなたが食べ終わっていようといまいと、私には関係ありませんが。渋い顔をしていますね。煙はもういいですか?やらなければいけないことがあるので。あなたの世話だけが私の日課ではないのです。
では、失礼します。