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10/18 「スラッシュファンダム研究」 小谷真理先生

ファン&ファンダム作品の代表的作品を読み、ファンの想像力/創造力の点から論じる。

 

私がこの課題の中で取り上げる作品は、代表的作品ではないが、最近連載が進んでおり、一定の評価を受けている

「ヲタクに恋は難しい(ふじた 著/一迅社出版)」

という漫画である。これは、インターネット上で提供されている会員制イラストコミュニケーションサービスである「pixiv」で公開され、pixiv内での評価基準、「ブックマーク数」が歴代1位となった人気作品が書籍化したものである。

 主人公は、隠れ腐女子のOLの成海(なるみ)。彼女の幼馴染で、ルックスはよく有能だが重度のゲームオタク(ゲーヲタ)である宏嵩(ひろたか)はともに趣味の話で盛り上がれる友人だった。成海が彼氏に振られ、意気消沈していたところ、宏嵩が告白し、そこから二人の物語が始まる。成海の周りには個性豊かな様々なジャンルのオタクが存在している。

 

この作品では、ヲタクの集団の日常が描かれており、その種類もコスプレ、漫画、ゲーム、腐女子と様々である。

オタクと言っても、実際その幅は広いため、ここまで多様なメンバーが同じコミュニティに属し、日常を共にするというのは、あまり容易なことではないが、この作品の中では相互理解が行き届いており、お互いの趣味を認め、そして影響しあっている。たとえばゲームオタクは腐女子に対して理解を示し、買い物や話にも付き合い、腐女子はゲーオタに進められたゲームをプレイしてみる、といったようなやりとりが日々行われている。

また、この作品の特徴として挙げられるのは、ヲタクがその素性を隠して一般社会にとけこんでおり、もしオタクだということがばれても、周囲からの評価が変化しないという点である。

このような状況を創造した作品が評価を受けていることから、ファンは、どのような趣味を持っていても、好むものがあるもの同士であれば受け入れられ、自分の趣味を容認してもらえることを望んでいるのではないか。現実ではそのようにいかないからこそ、フィクションの中で、自分たちの身代わりを利用してそんな世界を想像しているのではないだろうか。

さらに、この登場人物の親密な関係性が恋愛関係にまで発展することから、フィクションの中でだけでなく、ファン同士の関係性を深く構築することを期待していることが伺える。読者にとっては、現実からかけ離れていると感じる一般的なm恋愛漫画とは異なり、趣味が同じオタクであることに希望を抱くことが出来る。

しかし一方で、この作品を作者=いちファンの願望機としてこの作品を捉えると、あまりにも現実からかけ離れすぎており、読者が感情移入できない面が存在する。具体的に言えば、オタクがたまたま同じ環境下に一定数いるという状況や、周囲がオタクに対して寛容であること、そして、恵まれた容姿など。

一般的に「ありえない」状況を、こうだったらいいな、という創造で生み出したわけであるが、さすがにありえなさ過ぎて、読者は、作者の願望が押し付けられた妄想の世界である、と一線を引いてしまう。

 

フィクションであれば、現実ではないことを描くものであるため、作品の中での突飛な事態は大抵許される。

しかしファンダム作品では、読者と登場人物が同じフィールドに立っている感覚により、フィクションよりも、整合性や、現実味が強調されるように思う。

 

想像力をはたらかせ、自分の分かるフィールドで理想を描くと言っても、夢物語や、美化されすぎた話は、むしろ違和感を覚えてしまう。

そのような矛盾が起きてしまうくらい、真剣にその創造の世界について真剣に考えるからこそ、ファンは、自分たちが主役になるのではなく、あくまで、自分たちの現実の横やりが入らない、想像世界の中のキャラクターや、その関係性を創造の拠点にしているのではないだろうか。

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